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神戸地方裁判所 昭和32年(わ)302号 判決 1958年5月15日

被告人 岩崎博 外二名

主文

被告人岩崎博を死刑に、同島津尚紀を無期懲役に、同西田省三を懲役一五年に処する。

被告人西田省三に対し未決勾留日数中二〇〇日を右本刑に算入する。

押収のけん銃一丁(証第四号)を被告人等から没収する。

押収の腕時計一個(証第二号)を石川通子、石川陽子、石川浩三に還付する。

被告人岩崎博に対する公訴事実中、同被告人が奈良県橿原市四条町同県立医大附属病院内売店で松尾満喜子の菓子一瓶を窃取したとの点については、同被告人は無罪。

理由

(罪となるべき事実)

被告人等の経歴、交友関係

被告人岩崎博は五才のとき母に死別し、その後はテントの加工業を営む父の手で養育され、西宮市津門小学校に通つたが、五年で同校を中退し、その後間もなく塗装工となつて尼崎市内の津田塗装店で数年間勤めたが、その後同市内の内藤塗装店にかわり、昭和三〇年夏頃同店をやめてからは定まつた勤め先を持たずに同市内などの工事現場で塗装工として働いていたもの、被告人西田省三は、小学校を卒業後、一時鋳物工として働いたが、その後は、塗装工となつて前記津田塗装店に数年間勤めた後、昭和二九年頃尼崎市内の末広塗装店に勤め、同三〇年一〇月頃同店を辞めてからは、被告人岩崎博と同様、定まつた勤務先を持たず塗装工として働いていたもの、被告人島津尚紀は新制中学校を卒業後、尼崎塗装工業株式会社や内藤塗装店などで塗装工として働いていたものであるが、被告人岩崎博、同西田省三は、昭和二二年頃ともに前記津田塗装店に勤務していた関係で親交を持つようになり、被告人島津尚紀は、同三一年二月頃工事現場で被告人西田省三と知り合い交際を続けるうち、同年七月初旬同被告人を通じて、さらに、被告人岩崎博を知つたが、金遣いが荒いため、父から勘当同様に家を出され、被告人西田方や同岩崎方に同居するようになつてから、同被告人らと親密な交際をするようになつた。

ところで被告人岩崎博は、もともと、機械類に興味を持ち、乗物の模型などを作つていたが、一五・六才の頃からけん銃に興味を覚え、種々これを試作しているうち、次第に精巧なものを作り出すに至り、時々試射をしてはその性能を試していたが、こづかい銭が欲しくなつたのと、拳銃使用と自動車運転に対する興味から、ついに自己手製のけん銃を用いて自動車強盗をしようと考えるに至り、被告人西田、ついで同島津がこれに加担するようになつた。

(犯行)

第一、被告人岩崎博は、単独で自動車強盗をしようと企て、自己手製の連根式六連発けん銃一丁(証第四号)を所持し、昭和三一年三月八日午後九時五五分頃、尼崎市阪神電鉄国道線東長州停留所附近から太陽タクシー株式会社運転手寺尾円次(当三五年)の運転する同社所有の乗用車(一九五三年型トヨペットスーパー兵五あ二、六一七号)に客を装つて乗車し、同日午後一〇時一〇分頃、大阪市東淀川区新高北通三丁目二一番地塩野香料株式会社裏神崎川南岸堤防上に差しかかつた際、所携の前記けん銃を取り出し、これを右運転手に突きつけて停車を命じ、「命が惜しいか、金が惜しいか」と申し向けて脅迫したうえ、同人の所持する現金約一、九〇〇円を強取した

第二、被告人岩崎博、同西田省三は、共謀のうえ、

一、前同様自動車強盗をしようと企て、被告人岩崎は、手製の持上り弾倉式五連発けん銃一丁を、被告人西田は、判示第一記載のけん銃を、それぞれ所持し、同月三〇日午後九時二〇分頃、尼崎市内阪神国道玉江橋付近から伊丹市神姫タクシー株式会社運転手本城寅一(当二六年)の運転する同社所有の乗用車(一九五五年型トヨペットクラウン兵五あ六、〇〇八号)に客を装つて乗車し、伊丹へ行くことを命じ、同日午後九時四〇分頃伊丹市大鹿所在尼ヶ池西側道路上に差しかかつた際、同車を停車させ、被告人岩崎が、ただちに車外に出て、所携の前記けん銃を右運転手に突きつけて同人を客席に移らせたうえ、被告人西田が、所携の前記けん銃を同運転手に突きつけて脅迫して金品の提供を要求し、同運転手の所持する現金約二、五〇〇円及びシーマ腕時計一個を強取した

二、同日同時刻頃、同所付近で、判示第二の一、の犯行後、逃走の用に供するため、おりから、自転車に乗つて通行中の前谷義夫(当一八年)に対し、被告人岩崎が、所携の前記持上り弾倉式けん銃を突きつけ「自転車を貸せ、これが見えないか」等と申し向けて脅迫し、被告人西田が、右前谷を前記自動車の中に押し込み、所携の前記連根式けん銃で自動車のドアーをたたき、「声をたてるな」と脅迫したうえ、同人所有の富士号自転車一台を強取した

第三、被告人岩崎博、同島津尚紀は、共謀のうえ、前同様自動車強盗をしようと企て、被告人岩崎は、手製小型連根式けん銃を、被告人島津は、判示第二記載の持上り弾倉式けん銃をそれぞれ所持し、同年七月一一日午後九時五〇分頃、尼崎市内阪神電鉄国道線東大島停留所付近道路上から太陽タクシー株式会社運転手近藤近一(当五二年)の運転する同社所有の乗用車(一九五三年型トヨペットスーパー兵五あ二、六二一号)に客を装つて乗車し、伊丹方面に向つて運転させ、同日午後一〇時過頃、伊丹市長尾鴻池所在特殊精機株式会社付近道路上に差しかかつた際、停車を命じ、被告人等がそれぞれ所携の前記けん銃を右運転手に突きつけ、こもごも「金を出せ」等と申し向けて同運転手を脅迫したうえ、同運転手の所持する現金約一、六〇〇円を強取し、さらに、同運転手を助手席に移らせ、被告人岩崎が、同所から同車を運転し、被告人島津が、所携の前記けん銃を同運転手に突きつけたまま、同日午後一一時過頃、西宮市六軒町六一番地付近に至り、被告人岩崎が、抗拒不能の状態にある右運転手を降車させたうえ運転を継続して同運転手の運転していた前記自動車一台を強取した

第四、被告人岩崎博、同島津尚紀は、共謀のうえ、自動車運転手を射殺して自動車強盗をしようと企て、被告人岩崎は、判示第三記載の小型連根式けん銃を、被告人島津は、同じく持上り弾倉式けん銃を、それぞれ所持し、同月一二日午後一〇時二〇分頃、尼崎市内阪神電鉄国道線東長州停留所付近から日本タクシー株式会社運転手佐伯保治(当三四年)の運転する同社所有の乗用車(一九五五年型トヨペットクラウン兵五―二二、六二六号)に客を装つて乗車し、同日午後一〇時三〇分頃、同市次屋二一番地鐘淵機械株式会社西方約二〇〇米の通称神阪上水道路線の道路上に差しかかつた際、同車を停車させ、被告人島津が、所携の前記けん銃を右運転手に突きつけて同人を助手席に移らせ、被告人岩崎が、同車を運転して同所からさらに西方約二八〇米の地点にあたる同市久々地城の堀尼崎市営バス城の堀停留所東方道路上に至るや、被告人島津が、右運転手を射殺する目的をもつて同運転手の背後から右けん銃を発射して同人に命中させ、同人が車外に転び出たので、ここに同人の運転していた前記自動車一台及び同人が所持していた現金約三、〇〇〇円在中の手提鞄一個を強取したが、同運転手に対し約二ヶ月間の通院加療を要する肩胛間部盲管銃創を負わせたに止まり、同運転手を殺害する目的を遂げなかつた

第五、被告人三名は、共謀のうえ、前同様自動車の運転手を射殺して自動車強盗をしようと企て、被告人岩崎が、判示第一記載のけん銃を所持し、同三二年二月一四日午後八時過頃、尼崎市内阪神電鉄国道線東長州停留所付近から、尼崎タクシー株式会社運転手石川豊(当二七年)の運転する同社所有の乗用車(一九五六年型ダットサン兵五あ五、五五八号)に客を装つて乗車し、同市戸の内方面に向つて運転させ、同日午後八時三〇分頃、大阪市東淀川区加島町一〇九番地竹内栄次方前附近道路上で同車を停車させ、被告人岩崎が、右運転手の背後の客席から所携の前記けん銃を構え、いきなり、同運転手の後頸部に向けて一発射ちこんだうえ、同運転手を助手席に移し、同所から、被告人岩崎が右自動車を運転して宝塚方面におもむく途中、被告人西田が「運転手が目をあけている」と云つたので、同日午後九時前頃、豊中市庄内町庄本京阪神急行電鉄庄本踏切北方の道路上で一旦同車を停車して、被告人岩崎が、さらに、右運転手の右耳介部に向けてとどめの一発を射ちこみ、前記銃創に伴う頸髄挫創により同運転手を殺害し、同運転手が運転していた前記自動車一台及び同運転手が所持していた現金約一、一八〇円、スイス製ベナール一〇型腕時計一個(証第二号)等を強取した

第六、被告人島津尚紀は、同三一年一二月五日、玉島市玉島二九四番地質商岸野喜代子方で、同人に対しさきに友人の田中民男から借り受け保管中の同人所有の男物茶色オーバー一着を、三、五〇〇円でほしいままに入質して横領した

第七、被告人岩崎博は、別表記載のとおり、単独または他と共謀で、同三二年三月九日から同月一二日の間、五回にわたり、奈良県橿原市四条町八四〇番地同県立医大付属病院外二か所において岡本俊雄外四名の保管または所有にかかる避雷針銅線等を窃取した

ものである。

(証拠の標目)(略)

(法律の適用)

判示所為中、第一、第二の一、二、第三の各強盗の点は刑法第二三六条第一項(なお第二の一、二、第三については同法第六〇条)に、第四の強盗殺人未遂の点は同法第二四〇条後段、第二四三条、第六〇条に、第五の強盗殺人の点は同法第二四〇条後段、第六〇条に、第六の横領の点は同法第二五二条第一項に、第七の1ないし5の各窃盗の点は同法第二三五条(なお1については同法第六〇条)に各該当するところ、被告人岩崎博については判示第四の罪について無期懲役刑を選択し、同第五の罪については、同被告人は犯行を主唱指導した主謀者であり、かつ、自己の物慾と、拳銃の使用や自動車の運転に対する興味から、なんの罪もない運転手を殺害し、その妻子を悲嘆のどん底に陥し入れた罪責は極めて重大であるから、死刑を選択し、同被告人の判示第一、第二の一、二、第三ないし第五、第七の1ないし5の各罪は同法第四五条前段の併合罪であるが、一罪について死刑に処すべき場合であるから、同法第四六条第一項を適用して他の刑(ただし、没収を除く)を科さないこととして同被告人を死刑に処し、被告人島津尚紀については判示第四、第五の各罪について、いずれも無期懲役刑を選択し、同被告人の判示第三ないし第六の各罪は同法第四五条前段の併合罪であるが、同法第一〇条により犯情が重いと認める判示第五の罪の刑によつて処断するべきであるから、同法第四六条第二項を適用して他の刑(ただし、没収を除く)を科さないこととして同被告人を無期懲役に処し、被告人西田省三については、判示第五の罪について無期懲役刑を選択し、同被告人の判示第二の一、二、第五の各罪は同法第四五条前段の併合罪であるが、一罪について無期懲役に処すべき場合であるから、同法第四六条第二項を適用して他の刑(ただし、没収を除く)を科さないこととし、なお、犯罪の情状憫諒するべきものがあると考えるので、同法第六六条、第七一条、第六八条第二号により、酌量減軽をしたうえで、同被告人を懲役一五年に処し、同法第二一条に従い、未決勾留日数中二〇〇日を右本刑に算入し、押収のけん銃一丁(証第四号)は判示第一、第二の一、二、第五の各犯行の用に供したもので、被告人等以外の者に属しないから、同法第一九条第一項第二号、第二項に従い被告人等からこれを没収し、なお、押収の腕時計一個(証第二号)は判示第五の罪の賍物であつて被害者に還付すべき理由が明白であるところ、被害者は、すでに、死亡しているから、刑事訴訟法第三四七条に従いこれを被害者の相続人石川通子、同石川陽子、同石川浩三に還付することとし、訴訟費用は同法第一八一条第一項但書を適用して被告人等にはこれを負担させないこととする。

(公訴事実中一部無罪の判断)

被告人岩崎博に対する公訴事実中、昭和三二年四月一六日付起訴状記載の第六の別表のうち2は「同被告人は同年三月一一日奈良県橿原市四条町八四〇同県立医大付属病院内売店で松尾満喜子の菓子一瓶を窃取した」というのであるが、犯罪の証明が十分でないから、右事実については刑事訴訟法第三三六条後段を適用して同被告人に無罪の言渡をする。

よつて主文のとおり判決する。

(別表)(略)

(裁判官 山崎薫 西川太郎 野間礼二)

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